【今さらな映画感想】別離 

映画

スパイに命を狙われたり。
隕石が落ちて来たり。
竜巻に吹き飛ばされたり。
 
人生を一変させるような 
大きなアクシデントは、
そんな夢物語でなく、
実は身近な社会に潜んでいる。
 
そんな、身につまされるような映画です。

「別離」

出典:マジックアワー、ドマ ホームページより引用

データ

公開:2011
製作国:イラン
受賞歴:第61回ベルリン国際映画祭 金熊賞ほか

あらすじ

14年連れそったナデルとシミンの夫婦は、
離婚の危機を迎えていた。
 
娘の教育のために国外へ出たい妻シミンと、
アルツハイマーを患う父のために、
国に留まりたいナデル。
 
意見の合わない二人は
やがて別居することに。
 
独り身では、父の世話までできないため、
ナデルは介護人を雇いはじめるのだが、
そこから、人生が大きく狂いだす・・・。

イランの映画は初めてみたのですが、
日本にはない文化とセンスを感じて新鮮でした。
 
大きな違いは
やはり「宗教」でしょう。
 
日本とは違うルールが存在します。
 
イスラム教、コーランの教えにより、
女性はベールで髪を隠します。
 
女性が夫以外の男性に触れることも
厳密な決まりがあったりします。

こういった、
イランの社会ルールが話を
複雑にしていくのですが・・・。
 
 
物語は、ナデルとシミンの
家庭裁判所での
離婚手続きから始まります。
 
届け出にサインする、しない。
二人の意見は真っ二つ。
 
離婚要求は棄却されるのですが、
ただ、ちょっとこの判決。
 
やりとりを見ると、
男性側にひいきな印象を受けます。
 
判事は夫のナデルの意見は、
すんなり受け入れるのに、
妻シミンのほうは質問攻めだったり。
 
社会問題の1つが垣間見えます。
 
ちなみに2人には
娘がいるのですが、
娘は父側につきます。
 
そんなわけで、
ナデルは娘とアルツハイマーの父とで
手がいっぱいいっぱい。

仕事もやらなきゃいけないし。。。

そこで、介護人(ホームヘルパー)を
雇うことに。

やってきたのは、
女性の介護人、ラジエー。

なんと子供連れでやってきます。

実はラジエーの夫が失業中のため、
仕方なく働きにきたのでした。

しかも子育てと兼務ということで、
子連れでナデルの家に訪れます。

いや、失業中なんだから、
夫が子供の面倒みるほうがいいんじゃない?

と、日本人の私なんかは思ってしまいますが、
そういうわけにもいかないんでしょう。

いざ、ラジエーがホームヘルパーを
やってみると、
アルツハイマーの父が、
なかなかのくせもので。

1人でトイレにもいけないし、
少し目を離したすきに、
勝手に家を離れて車に轢かれそうになるしで
心労が絶えません。

危なっかしいもんだから、
ラジエーは外出の際、
この父をベッドに
縛り付けてしまうんです。

しかし、それが大きな問題を
引き起こします。

ナデルが家に帰ると、
父がベッドから落ちてケガをしていたのです。
手を縛られたままで!

外出から戻ったラジエーは、
怒ったナデルに追い出されてしまいます。

そのとき、勢い押されたことが原因で、
倒れ込んだラジエーは腹痛を訴え病院へ。

実はラジエーは、子供を身ごもっており、
このことがきっかけで流産してしまったのでした。
  
この一連の流れは
お腹の子供を殺した「殺人事件」として
裁判が行われることになります。
 

ちょっと、長くなりましたが、
ここまで前フリ。
 
一連のシーケンスだけだと、
けっこう普通。
 
むしろ、描写がほぼ家の中なので、
すごーく地味。
 
だと思ってました。
 
面白いのは、ここから先です!
 
それぞれ裁判所で供述するのですが、
全員の意見が食い違います。
 
というのも、
「妊娠を知っていて突き飛ばし流産させる」
「妊娠を知らずに突き飛ばし流産させる」

では、罪の重さがまったく変わるんです。
 
そんなわけで、
妊娠を知っていた、知らないで論争が
起こります。
 
この裁判を基軸に、
 
登場人物全員が、
嘘をついていることが分かってきます。
 
それも、自己を守るための嘘。
 
 
冒頭からすでに嘘が始まってます。
それはラジエーが働きにきたこと。

既婚女性が見知らぬ男性宅に行くことは
宗教上、かなり厳しいらしく、
生活のため、夫に内緒で働きにきていたんです。
 
 
そののち、ナデルのことを、
よく思わない妻・シミンも絡んできて、
より話は複雑に。
 
シミンはナデルの主張に嘘があると
思ってますからね。
 
 
真実が少しづつ明らかになるにつれ、
抱くのは、

「どうして、もっと早く言わなかったんだ!」

という思いですね。
 
 、
嘘で複雑に絡み合い、
話が2転3転していく流れは、
シチュエーションの少なさを
補ってあまりあるほど面白いです。

1950年の映画「羅生門」を彷彿とします。
 
 
物語が進むにつれ、別離というタイトルどおり、
いろんな関係が切り離されていきます。
 
夫と妻、親と子、姉と妹、近所づきあい
そして社会と・・・。
 
 
 
 
印象的なカットが2つあります。

1つは、 
ナデルの娘と
ラジエーの娘。
2人の娘の目です
 
ところどころ、
クローズアップカットが
絶妙なタイミングで入ってきます。

“何を訴えているのか?”

この2人が見つめ合うシーンが
あるんですけれど、
胸がキュっと締め付けられます。
ネタバレだから言えないけれど。
 
 
2つめは、
裁判所でのナデルとシミン。

2人が仕切りをはさんで
向かい合いもせずに、
呆然と座り込むカット。
 
このカットにくるまでの流れを
追っていると、
何とも言えない虚無感を覚えます。

 
登場人物たちの口からは語られませんが、
一番の問題は、社会の仕組みなのかもしれない。
 
女性の自由。貧富の格差。
信仰心。
 
これからの課題を浮き彫りにするような
強烈な映画でした。

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