【編集の参考映画】無常

映画

無常とは

仏教用語であり、
常に同じものはないということ。

ものごとは移り変わり続けるもので、
ときに、人生のはかなさを表す言葉として
使われています。
 
 
日本では、全員が仏教徒というわけでは
ありません。
ですが、今の日本の文化を作ったのは、
仏教を信仰した偉人たち。
 
よって、仏教徒に限らず、
影響を受けた考えが
広く浸透していると思います。
 
そんな日本人の仏教観みたいなものを
「近親相姦」というタブーで
切り込んだ映画の話。 

無常

出典:NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン より引用

 
データ

公開:1970
製作国:日本
受賞歴:第23回ロカルノ国際映画祭 金豹賞

あらすじ

父の後を継ぐことを嫌い、仏像研究に傾倒する正夫。
縁談を断り続け独り身の姉、百合。
 
ある日二人だけになった姉弟は、
ふざけあっているうちに、肉体関係を持ってしまう。
 
禁忌の繋がりに溺れていくうちに、
ついに姉の百合は正夫の子を身ごもってしまう・・・。

この映画の監督は実相寺昭雄氏。
ウルトラマンシリーズの監督でも有名なかたです。

まず、まっさきに目が行くのは、
全編モノクロなんですね。

ウルトラマンは1966年放送開始で、
カラーで作られていました。
もうテレビでカラー作品が見られる時代です。
 
「無常」は1970年公開にもかかわらず、
モノクロで作られています。
 
見終わって思うんですが、
色の情報をカットアウトしたのは
正解でしたね。
 
めちゃくちゃ生々しいエロスにばかり
目がいく作品になってたかもしれません。
 
そう、エロス!
 
男女の交わりが、これでもか!
というくらい出てきます。
 
あっちも、こっちも脱ぎまくり。
 
日本人の仏教観をはずすために、
不埒な関係というのが
たくさん出てくるんですよね。
 
 
まず、映画の基軸にもなっている、
正夫と百合の近親相姦。
こんなものは序の口で。
 
そこから、子供ができた百合は、
正夫の入れ知恵で
カモフラージュに別の男、岩下と結婚します。
 
岩下がまた不憫で不憫で。
百合と正夫の情事を見てしまうんですよね。
そこから先は・・・。
 
まだまだあります!
  
劇中で正夫は仏師に弟子いりしますが、
この仏師は自分の妻と正夫の不倫を見守るんですよ。
 
不倫もなかなかなもんですが、
2人がセックスするところを覗き見し、
仏像を彫るエネルギーにしている。

・・・今だったらNTRとか
騒がれるやつですね。
 
というか百合がいながら
他人の妻に、よく手を出すなぁ。
 
あ、そうそう。
女性の風呂を覗きするお坊さんも忘れちゃいけません。
 
 
とにもかくにも、
登場人物の大半が1つどころではない、
倫理観の崩れたことをやらかしてくる。
 
その全てに正夫が関わっている。

物語の中で、正夫を象徴する印象的なセリフが
あります。
「行く先々で地獄を作る」
 
 
 
文字化すると、イロモノのようで、
見る気がなくなりそうですが、
見始めると、けっこうするすると見られます。
 
その理由は、独特の撮り方にあります。

対象を平行に撮らずにカメラを傾けて撮ったり。
目だけのクローズアップや、
対象を中心にすえず、画面の端においたり、
人物の頭上に広く空間をあけた画面構成だったり。

あげるとキリがありませんが、
あまり他の映画では見ない、独特の撮り方です。

これが新鮮味をあたえてくれて面白い。
 
ただ、一番すごいのは編集のテンポです。
 
1カット、1カットは取り出して見ると「変」なんですが、
それを感じさせないし、
人物の心理描写にマッチしてるように見えます。
それは、なんといってもカットを切り替えるタイミングとか、
1シーンごと見せる長さのバランスがいいんだと思います。
 
印象的なのは、
正夫たち家族が集うシーン。

父、母、正夫、百合が食卓を囲むカットで、
カメラは4人を映しながらドリーバック。

このカットは冒頭に出てきます。

まだ、正夫と百合はいたしてないタイミング。
父と母は正夫に後を継いでほしいし、
同時に結婚の気配もない百合を心配してもいます。

たいして正夫は家を継ぐ気はない。

ちょっと距離感のある4人を映します。
 
面白いのは、
ちょうど映画も半分をむかえたころ、
全く同じ構図、動きが出てきます。
 
ただし、このタイミングでは
決定的に違うことがあります。

百合がいないんです。

彼女は妊娠が分かり部屋で塞ぎこんでいました。

百合の異変を薄々気づいている母。
まったく知らない父
そしらぬふりをする正夫

家族の関係がまるっきり変わった瞬間です。
 
 
もうひとつ、音楽も印象的。

良い意味で気に障るヴァイオリンの音が
冒頭から流れます。

ヴァイオリンって
仏教から馴染みの遠そうな音色だと思うんです。
でも、これが絶妙にマッチしてる。

不思議だぜ。
気の抜けそうなカットでも、
この音色がピシャンと背筋を伸ばしてくれます。
 
 

ちょっと長く書きましたが、
いろんな関係性が
めまぐるしく変わり、
飽きさせない映画です。
 
 
最後の最後。
衝撃的な展開で終わるんですが、
あれが仏教の境地。



なのかな。

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