【動画編集の息抜き本】「同姓同名」常識はずれの叙述トリック

書籍

ミステリーの手法の一つに、
犯人側の視点を描く…というものがある。

まさに犯行に及ぶ瞬間、読者は犯人側の善の心となり、
「止めて!」「馬鹿な真似はよせ!」と呼びかけるわけだ。

そんな時、大概、犯人の名前は伏せられていることが多い。
なぜなら、バレてしまっては推理の醍醐味が失われてしまい、
非常にもったいないからだ。

でも、名前が明かされていたほうが感情移入しやすい―
この問題をどう解決したものか。

それに、一つの答えを出した小説がある。

今回、扱うのはこんな物語。

同姓同名【電子書籍】[ 下村敦史 ]

タイトルから気づいた方もいるでしょう。
そう、この物語には同じ名前の人物が都合10人、登場します。

あらすじ
大山正紀(おおやままさのり)はプロサッカー選手を目指す高校生。
いつかスタジアムに自分の名が轟くのを夢見て練習に励んでいた。
そんな中、日本中が悲しみと怒りに駆られた女児惨殺事件の犯人が捕まった。
犯人は未成年。実名報道が伏せられる中、週刊誌が暴露した名は「大山正紀」。
報道後、サッカー推薦の枠から外れた高校生の大山正紀を始め、
不幸にも殺人犯と同姓同名になってしまった”名もなき”大山正紀たちの人生に影が落ちる。

そして7年後、刑期を終え大山正紀が世に放たれた。
加熱する犯人批判、暴走する正義、炎上するSNS。
犯人に名前を奪われ人生を汚された大山正紀たちは『”大山正紀”同姓同名被害者の会』に集い、
犯人を探し出そうとするが−−。大山正紀たちには、それぞれの秘密があった。

「同姓同名」帯より引用

いや、こんな解決方法があったなんて!
名前を明かしたいけど、できないー
なら、全員同じ名前にしてしまえばいいんじゃね?

…的な、考えがあったかは定かではありませんが、
冒頭からガッツリ心を掴まれた。

25日夜、東京都✕✕区✕✕に住む男性が警察に、
人を殺したとして出頭しました。
警察は、大山正紀さんを死なせたとして、
出頭した大山正紀容疑者を傷害致死の容疑で逮捕し、
事情聴取をしています。

「同姓同名」P1より引用

「え?どういこと?ってなりますよね。
でも、その〝どういうこと?”は、
物語を読み進めるたびに増えていきます。

家庭教師の大山正紀
中学生の大山正紀
サッカー部だった大山正紀
茶髪の大山正紀
そして、殺人犯の大山正紀…などなど

今、どの大山正紀の話をしているんだろう???
誰もかれもが犯人に見えてくる。

こういうのはミステリーでは定番!
叙述トリックと言いますが、
そんじょそこらのミステリーと一線を画すのは
仕込まれた叙述トリックの数!

普通はせいぜい、ひとつ、ふたつが限度のところ、
この物語では「これでもか!」「これでもか!」
と言わんばかりに詰め込まれています。

もうコチラがお腹いっぱいです!と叫んでも
「いや、まだいけるだろ!」とパンパンに詰め込んできます。

同姓同名だからできる、このアイデア一発勝負!
…かと思いきや、そんなこと全くありません!!

実は超社会派ミステリー。

SNSによる自称「正義の味方」たちによる鉄槌が
たびたび現実世界でも問題視されますが、
群衆の行き過ぎた「犯人捜し」が過熱していく恐怖も
盛り込まれています。

ゆえに、だんだん奇妙な感覚になっていきます。

こんなに、同姓同名が集まるなんて
フィクションだなぁ。とは中々思えなくなっていく。

ひょっとしたら、ありえるかも。

だって、私たちは誰かの同姓同名なのだから。

この小説、個人的な心残りがひとつあります。
それは、
ネタバレ無しで読まないと、絶対損をする物語なので、
私の文才では、これ以上は語れないこと。

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