そういえば、絵本の動物はなんで、よく行進してるんでしょうね。

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今回は、こちらの読書感想。

絵本のなかの動物はなぜ一列に歩いているのか: 空間の絵本学
著者・矢野智司・佐々木美砂

絵本のなかの動物はなぜ一列に歩いているのか

タイトル買いしました!
この言われてみればっていう、
好奇心をそそるネーミングセンス!!
 
余談はさておき。
 
絵本の根幹にある要素として、いわく
「絵本は本であるとともに、遊びを苗床にして育ち、
遊びを深く育てる玩具(メディア)でもある。」
そうだ。
要は絵本=遊び。
 
そんな絵本には大きく2つの型がある。
1つは「均衡回復型」
2つめは「均衡回復されない型」
 
絵本にあるまじき、難しい単語!
作者は間違いなく、絵本ガチ勢。
 
まず、「均衡回復の絵本」の特徴から。
出来事を主体においた作品で、
どんな出来事にあっても主人公の性格が変化・成長しない。
大半の絵本の型である。
 
もう少し、細かくみていくと、  
「均衡回復の絵本」にも2つのアプローチがあり、
・積み木型絵本
・入れ子型絵本

と分類している。
 
 
では、「積み木型絵本」とは?
読んで字のごとし。積み木遊びになぞらえた型で、
人やら動物やら何かが次々と加わり、どんどん足されて積み上げられていく。
あるいは連なっていく作品。
 
例えば、こんな作品たち。
・横に連なる 例「もりのなか」(参考:絵本ナビより)
・縦に連なる 例「ぞうくんのさんぽ」(参考:絵本ナビより)
・寄りそって集まる 例「あめのひ きのこは・・・」(参考:絵本ナビより)
 
積み木型の真骨頂は、積み上げられたものが
一気に崩れていくところ。
 
積み上げた積み木が崩れ落ちた時、
がっかりしつつ、妙な爽快感を子どものときに感じませんでした?
あれです。
 
このパターンの絵本は、最後に必ず
状況を一転させる崩壊があります。
「おおきなかぶ」(参考:絵本ナビより)だったら、かぶが抜ける瞬間とか。
 
ちなみに、上記作品たちは
イラストで積みあがっていく様子が描かれますが、
イラストで描かず文字で積みあがっていくパターンもあります。
 
例えば、こんな作品。
「これはのみのぴこ」参考:絵本ナビより

「これは のみの ぴこ」
「これは のみの ぴこの すんでいる ねこの ごえもん」
「これは のみの ぴこの すんでいる ねこの ごえもんの
しっぽ ふんずけた あきらくん」

と、ずっと関係を言い表す言葉が積みあがっていく。
 
絵も文字も積まれないパターンもあります。
 
「ぶん ぶん ぶるるん」(参考:絵本ナビより)では、
ミツバチがオウシを刺し
刺されたオウシはメウシに
メウシはミルク絞りのおばさんに
おばさんはおじさんに
おじさんはラバニ、ラバはヤギに
つぎつぎ八つ当たりしていく。
最後はコトリがミツバチに、そしてそのミツバチはというと・・・
 
こうやって、出来事が連鎖していく。
で、下記のような作品もあります。
「ことりのぴーと」
羽根が一枚もないぴーとが仲間の小鳥たちから羽根を一枚づつプレゼントされる話。

「とりかえっこ」
ヒヨコが行く先々で出会った動物たちと鳴き声を交換していく話。
ブタなら「ぶうぶう」犬なら「わんわん」といった具合。
 
上記3作品は、絵や文字ではなく、何が積まれていくかというと、「関係」。
視覚では、表現できないもの。
 
 
つづいて、ちょっと戻って、
「均衡回復型」の2つ目!
入れ子型絵本。
これは、閉じられた空間の中に、人やら動物やらがつぎつぎと入っていく構造のこと。
スペースに限度があるため、どこまでの大きなものが入っていくのか?という驚き、
かつ、中の様子が見れないので、秘密めいた楽しさもある。
 
例えば、「てぶくろ」というお話があります。
道に落ちてる手袋に、暖をとろうと次々と動物が入り込む。
カエル、ウサギ、イノシシ・・・と最後はクマでさえ。
そして、最後は手袋を探しに来たおじいさんが
犬を連れてやってくると、中の動物たちは一斉に飛び出す。と。
 
まずそもそも、お前ら手袋に入れるのか?!って
動物たちがたくさん出てきます。
この、ありえない!ノンセンス的なおかしさ。
そして、中はどうなってるのか見えない魅力が入れ子型の特徴。
 
 
ここまで、積み木型、入れ子型と2つのアプローチを紹介しました。
均衡回復とは、一端、てんやわんやしたものが、
まわりまわって、均衡を取り戻す話のことを指す。
 
で、この手のものは、繰り返しのリズムが多い。
「おおきなかぶ」だったら、
「○○が○○をひっぱって」
「うんとこしょ どっこいしょ」
「まだ まだ かぶは ぬけません。」だろうか。
 
この繰り返しは子どもの遊びと似ている!
子どもの遊びは反復に満ちているので、
絵本の構造も基本的な遊び体験といえるのだとか。
 

ところで、なぜ絵本には動物が出るのか考えたことあります?
絵本はページをめくるごとに時間が進む構造になっていて、
その都度、新しい世界、場面を提示しなければならない!
それを実現する最も良い方法は、
めくるたびに新しい登場人物に出会うこと。
 
そこで動物にするメリットは、
違う者としての特徴を分かりやすく見せられる。
 
またまた「おおきなかぶ」を例に。
人の力だけではカブは抜けず、犬や猫が加勢し、
何の役にも立たなそうなネズミの力でカブが抜ける。
面白いのは、大きな動物でなく、
小さな動物が崩壊のキッカケなところ。
 
大きいモノ、小さいモノ、対比や個性の違いを
人間だけでは表現しにくいため。動物になっている。
さらに、
動物と出会うことで人間と動物の境界を知り
動物はそれ以上の存在だと感じる。
知るというより感じるのかな。
作者いわく、こういうこと。

動物は子どもにとって「人間になること(発達)」の手段であると同時に
「人間を超えること」を可能とする他者である。

カニのハサミや、ウサギの耳など特徴的な形態は子どもの関心をひきます。
人間ではないけれど、それ以上の能力をもった他者だと理解するわけ。
 
 
では、最後に。
絵本が小説や、絵画と一線を画すポイント。
それは、絵本はイラストと文章それぞれで完結しない。
お互いを補完する相互作用をもつ。
 
物語として切り取って
1枚の絵として切り取ってもうまくいかない。
しっくりこない。
なぜなら、絵本は物語でなく、体験だから。
その証拠に子どもは繰り返し読みたがる。
 
そして、他のメディアにない、絵本独特の文化がある。
それは「読み聞かせ」
声により、立体的な体験をもたせることができるのが、
絵本の魅力のひとつ。
 
 
とまあ、中々にディープな絵本の世界でした。
 
「均衡回復されない絵本」については、省略。
詳しくは、この本を一読ください。
 
では、この辺で。

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