“人類総引きこもり”『バイオスフィア不動産』感想

書籍

家から外に出る理由って、
そういえば、ないのかもしれない。
そんなSFの話。

バイオスフィア不動産

バイオスフィア不動産 (ハヤカワ文庫JA)
著者:周藤 蓮

あらすじ

バイオスフィア3型建築、
それは内部で資源とエネルギーの全てが完結した、
住民に恒久的な生活と幸福を約束する、新時代の住居。
その浸透によって人類の在り方が大きく様変わりした未来、
バイオスフィアを管理する後香不動産の社員として働く
アレイとユキオは住民からのクレーム対応により、
独自に奇妙な発達を遂げた家々の問題に向き合っていくことになる。

出典:ハヤカワ・オンラインより引用

人類、総引きこもり社会。

生産から消費まで、全て室内でまかなえるとしたら、
外に出ることになんの意味があるのか…。
 
満ち足りた世界で何かを無くした人たちの話。
 
 
引きこもりというと、マイナスなイメージですが、
ここ2年ですっかり定着した引きこもりがあります。
それが、「ステイホーム」
ステイホームは「家から出るな」だけど、
こちらは「家から出たくない」なんだよね。
 
 
そんな出たくなくなるような、
夢のような建築「バイオスフィアⅢ型建築」
 
最大の特徴は、 
家の中に、欲しいモノを作れる装置があること。
これに願えば大体のものは手に入る。
 
食べ物、衣服、娯楽、家事ロボット。
  
つまり、買い物の必要性がなくなった。
「作れる」ということは、
「選ぶ」必要がなくなったわけで。
選ばなくなる。ということは
悩まなくなる。
悩まなくなるということは、
生き方が分からなくなる。
 
得ているというより、なくなっていくのだ。
 
それは、とうとう家の外観にも表れる。
ずばり、出入り口が無くなる。
どうやって入るんだよ。ってなことだが、
入るときは自由らしい。
 
しかし、一度入ると出たがらないので、
出入口の機能を失う。
 
外に出る必要がないということは、
景観を気にする必要もなく。
一様に同じ外観をするバイオスフィアⅢ型建築。
 
 
仕事する必要も
お金も必要もない。
一見、夢のような生活。

にもかかわらず、
クレームがくるとしたら、
どんなものがあるのか。
 
そんな、たらればを想像していく、
一種の思考実験をしてるような、不思議な物語でした。
 
例えば、家の中で過ごすだけに、
法律は意味を成すのかとか。
家の中だけで完結する秩序が生まれたりとか。
 
理解できるようで理解できない、
個性的な住人たち。
 
閉じられた世界で生きるさまは、
ケージの中の虫のよう。
快適な空間と、好物を与えられるのが、
まさに、似ていると思った。
 
 
ユニークな物語なんだけど、
ただ、短編集なので、
意外と個々人の話があっさり終わる。
 
1話の「責問神殿」とか、
もっと掘れそうな気もしたけど、
あれ以上は長すぎるのか。
なので、主人公たち・・・、ユキオはともかく、
アレイは気付いたら、なんか成長してた感がする。
 
 
もうちょっと、長い話でも読みたいかもなぁ。

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