“実話サスペンス映画” ニトラム NITRAM 感想

映画

96年、実際にオーストラリアで起きた
銃乱射事件をもとしたサスペンスの話。

ニトラム NITRAM

出典:ニトラム NITRAM公式HPより引用

データ

製作国:オーストラリア
公開:2022年

あらすじ

舞台は90年代半ばのオーストラリア、タスマニア島。
観光以外の産業にとぼしい この地で、両親と暮らす青年。
 
彼は小さなころから周囲になじめず孤立し、バカにされ、
何ひとつ思い通りにならない人生を送っていた。
 
ある日、サーフボードを買うために始めた芝刈りの仕事で、
ヘレンという女性と出会い、恋に落ちる。
しかし、ヘレンとの関係は
悲劇的な事件をきっかけに終わりを迎えてしまうのだ。
 
そのことをきっかけに、
「彼」の孤独感や怒りは増大し、精神は大きく狂っていく。

もとになったのは、
96年4月28日、タスマニアの観光地ポート・アーサーで
発生した、無差別殺人。
通称、「ポートアーサー事件」である。
 
犯人の名はマーティン・ブライアント。
「ブロード・アロー・カフェ」でアサルトライフルを
取り出すと、店員や客に向けて乱射。
 
最終的に、死者35人、負傷者15人という、
前代未聞の被害者を出した。
 
動機については未だ不明である。
 
 
不明な点もあるため、
実際の事件背景とは異なる部分もあるものの、
概ね史実に忠実に作られている映画でした。
 
ちなみにタイトルの「二トラム (NITRAM)」ですが、
犯人の名「マーティン (MARTIN)」を逆さに読んだもの。
 
マーティンは、このニックネームで呼ばれることを
ひどく嫌っていたようです、
 
なぜ、こんなタイトルなのか?
それは、映画をひもとけば分かるやもしれません。
 
 
では、ここから本編の話。
「二トラム NITRAM」ですが、
主人公に感情移入させないように
意図がされた
映画だと思います。
  
 
それが分かるのが名前です。
実は、本編で主人公である「彼」の名前が
呼ばれることは一度たりともありません。

 
唯一、ニックネームの「二トラム」と
呼ばれるくらいですが、
これも、中盤をすぎてから、
やっと、そう呼ばれ始めるのです。
 
名は体を表すとは言ったもので。
見てる我々は、「彼」がどういう人物か
イメージを固定することができないまま、
物語を見させられるはめになります。
 
 
だからか分かりませんが、
「彼」の行動原理は、
何一つ理解できないんです。
 
車に乗っていて、
運転中のドライバーのハンドルを
イタズラするとか、
火のついた花火の上を
飛び越えるとか

危ないと分かっているのに
手を出してしまうんですね。
 
 
昔、回っている扇風機に
指を突っ込んだら、どうなるんだろう。
と、やったことがあります。
 
危ないって分かってても
ついやっちゃう行為。
 
ただし、普通の人は、手ひどい痛みを知るので、
次からは同じことをしなくなります。
 
そんな、普通の人にあるブレーキが
なくなった状態が「彼」
 
ブレーキのない彼の行動は、
さまざまな、悲しい結果を生み続けます。
 
 
さらに、唯一呼ばれる名前は「二トラム」
これは、本人にとって嫌いな名前ですからね。
 
名前で呼ばれ始めた後半からは
実体のない存在から
異質なものを見る目線になってると思います。
 
 
 
あと、もう1点がカメラワーク。
 
これさえなければ、
事件は起きなかったかもしれない。

 
という、決定的なターニングポイントでは、
急にカメラはロングショットになっている
感じました。
 
 
例えば、銃の売買のシーンで、
「銃を売るよ」と決まるカットは
ロングショットで見せています。
 
大体、こういう作品は、
主役の顔のアップとかいれそうなものですが、
そんなことはしません。
 
観客に
「ああ、それなら犯行に及んでも仕方ないよね」
と、思わせてくれないのです。
 
なんてったって、もとの事件は
そもそも動機が不明なんですから。
フィクションで答えを示すのは、
大嘘になってしまいます。
 
 
 
とまあ、
主人公「二トラム」に寄り添いつつも、
感情移入させすぎない、
絶妙なバランスで作られたこの映画。
 
何が起きるのか分からないサスペンス。
というより、
何を引き起こすのか分からないサスペンスとして、
けっこう心に残る、作品でした。
 
犯行の直接的なシーンは描いていないのにも
関わらずね。
 

彼がどんなことを思って事件を起こしたのか。
見た人、それぞれで違って見えることでしょう。
以上、「ニトラム NITRAM」でした。


 
蛇足

車内から二トラムの犯行の様子を捉えた
一連のカメラワーク。
面白いけど、どうやって撮ってるんだろう。
 
360度カメラかな?

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