ここまで、“個”を前面に押し出した映画って
ないんじゃないか。
そんな作品の話。
エッシャー通りの赤いポスト
データ
公開:2021年(日本公開)
製作国:日本
監督:園子温
あらすじ
鬼才のカリスマ映画監督・小林正は新作映画『仮面』に、
出典:映画『エッシャー通りの赤いポスト』オフィシャルサイトより引用
演技経験の有無を問わず広く出演者を募集する。
浴衣姿の劇団員、小林監督の親衛隊である“小林監督心中クラブ”、
俳優志望の夫を亡くした若き未亡人・切子、
殺気立った訳ありの女・安子、プロデューサーにまとわりつく有名女優など
様々な経歴の持ち主たちが、オーディション会場に押し寄せて来る。
それぞれの事情を持った参加者たちは、小林監督の前で語り、演じて見せる。
一方、助監督のジョーたちに心配されながら、
脚本作りに難航する小林の前に、元恋人の方子が現れる。
彼女は脚本の続きを書いてくれるという。
1年前のある出来事を忘れることが出来ない小林は、
方子に励まされながら『仮面』に打ち込み、
刺激的な新人俳優たちを見つけ出すことで希望を見出すが、
エグゼクティブプロデューサーからの無理な要望を飲まなければならなくなる。
自暴自棄に陥った小林は、姿が見えなくなった方子を探すが……。
映画『仮面』のオーディションにのぞむ十人十色の
悲喜こもごもを描く群像劇。
群像劇だと思うんだけど、
至る所に“園子温”が散りばめられた
究極の自己顕示欲みたいな1本。
劇中に「最初に撮った自主映画の女優が忘れられない」
という旨のセリフがあるけど、
それと、今作のテーマ“原点回帰”がリンクしている。
もともと、園監督の原点回帰を目指した作品でもあり、
インディーズ時代の作り方を意識して撮ったみたい。
だから、ほぼ手持ちカメラの荒々しい撮り方。見せ方をしてて。
そのことから、
よくよく見れば、たぶん全部、
園監督の一部じゃないのか。
そんな風に思っちゃうキャラクターたち。
小林とか、ジョーとか、絶対園監督の分身だと思ったね。
女性にだらしないとことか。
そんでもって、
無理やり有名女優を使えと言われるとこも、
裏でそんなこと言われたこともあったのかな。と
思わされる。
出演者のほとんどは、
園監督のワークショップの受講者、つまり役者のタマゴたち。
というか、ワークショップのひとつの終着点として
この映画があったみたい。
ワークショップという現実と、映画という虚構がつながっているため、
妙に生々しい。演技のような、そうでないような・・・。
境界線があいまいな感じ。
タイトルの「エッシャー」ってだまし絵で有名な芸術家でもあるから、
それともかけてるのかな。
境界線があいまいに感じちゃうのは、
とかく、客観的な情報が少ない。
全部、個々の人物の心情に寄り添った撮り方で、
アップショットが多く。
ロングショットで見せる画なり、
それぞれが心を通わせるシーンは無い。
はっきり無い。
強烈な“個”をずらーっと並べた、
徹頭徹尾、めちゃくちゃな見せ方なんだけど、
なぜか目が離せない、パワーに溢れている。
そういえば、劇中に、この映画をひとことで
まとめたセリフがあった。
「人生エキストラでいいのか?!」
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