ジャーナリズムとは何か?を問われる
実在の人物がモデルの映画の話。
赤い闇 スターリンの冷たい大地で
データ
製作国:ポーランド・イギリス・ウクライナ
公開:2020年
あらすじ
1933年 第一次世界大戦後、
各国が世界恐慌にあえぐなか、繁栄している国があった。
スターリン率いるソビエト連邦である。
大いなる謎を解くため、
若き英国人記者、ガレス・ジョーンズは
単身モスクワを訪れる。
しかし、厳しい報道規制が敷かれ、
思うような取材もできずにいた。
やがて、疑問の答えがウクライナにあると知った
ジョーンズは、当局の目をかいくぐり、
ウクライナ行きの列車に乗り込む。
凍てつく雪の大地で、
ジョーンズが目にしたのは、
想像だにしない、悪夢だった・・・。
前半1時間は謎を追うサスペンス。
謎が謎を呼ぶ展開は、本当にワクワクする。
世界的に大不況のさなか、繁栄し続けるソ連の秘密を
なんとかモノにしてやろうと、
ジョーンズがモスクワ入国をあの手この手で試みます。
そんな折、
モスクワにいる記者仲間が変死を遂げ、
ますます、ジョーンズの興味が掻き立てられていく。
「何を知ってしまったのか?」
やっとの思いで、モスクワに到着するも、
記者たちに異様に冷たい当局の存在。
そしてついにジョーンズは知るのです。
仲間が命を落としたのは、
ウクライナへ行こうとしたからだと!
当然、ソ連がわとしては、
ウクライナ行きを容認しないため、
ウソをついて、ジョーンズは潜入。
映画の本題、
ウクライナパートへと、物語は移行します。
ここからの描写は、
2つの秀逸なポイントがあると思いました。
まず、1つ目が画面の色。
明らかに、雰囲気が変わるんですよね。
画面から鮮やかさがなくなるんです。
彩度が薄くなって、ほぼ白と黒の世界。
そして、賑やかに映画を盛り立ててていた
音楽もなりを潜めます。
絶望云々を表しているというより、
“現実”を表現しているんじゃないかと。
そんな感じがしました。
当時のカメラは白黒しかありませんから、
真実を映し出す。という意味での描写じゃないかと。
「シンドラーのリスト」っぽいですね。
2つめが、セリフで語りすぎない。
ウクライナの惨状を伝えるのに、
ジョーンズがしたであろう体験と
同じ感覚を、見てるものに伝えてくれます。
例えば、列車でウクライナへ向かうシーン。
車内はジョーンズ以外、ウクライナ人という状況。
ジョーンズが食事する場面で、
乗客全員に注視されるんです。ガン見ですよ。ガン見!
そして、乗客の一人からコートを譲ってもらう場面で、
ジョーンズが金を渡そうと財布を出すのですが、
それを制され、こう言われるのです。
「金よりもパンをくれ」
ウクライナ人にある、強烈な飢餓感に
気づきはじめるんですね。
なぜ、そんなことになったのか?
ウクライナの地に降り立った時、
更なる惨状が明らかになります。
ジョーンズが見たものは、
路上で野垂れ死んでいる人、人、人。
しかし、誰も気にとめない。
いや、気にとめる余裕がなかったのかもしれない。
路上で餓死してしまった人々。
スターリンは、隣国ウクライナから食料を奪っていたのでした。
セリフで語らず、徐々に明らかになっていくさまは、
主人公の追体験ができる、上手い作りだなと感じます。
で、このあとも衝撃的なシーンが続きます。
●食べ物に困った民衆は
何を食べて生きながらえているのか?
徐々に明らかになっていく見せ方も好き。
おおよそ、想像したとおりの最悪の結果です。
●ジョーンズがまだ20代の若造ということも
感じる場面も印象に残ります。
記者なので、至るところで写真を撮るのですが、
1か所だけ、シャッターを押すのを躊躇するシーンがあります。
どうしても、人間的な部分が出てしまった良いシーン。
音楽もなく、心苦しさが伝わってきます。
●映画終盤、辛い体験を経て
やっとの思いで、持ち帰った“真実”も
組織的な大きな力で、もみ消しを図られる。。。
ジョーンズは真実を公表できたのでしょうか?
良いところはたくさんありますが、
個人的にイマイチだった部分も。
ジョーンズがうっかりミスで
ソ連兵に捕まるところは、
さすがに、わざとらしすぎないか?
それと、もう少しウクライナの惨状を知りたかった。
ここは、描きすぎるとジョーンズの体験談という話から
逸脱しすぎるのかな。
以上、「赤い闇」でした。
2022年3月現在、社会情勢を考えると、
いろんな感情が去来する映画です。
最後に、印象に残ったセリフを
「ジャーナリストはどちらかに肩入れしない、
真実だけを伝えるんだ。」
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