哲学者たちはよく歩く。
出典:「ウォークス 歩くことの精神史」p31より引用
しかし、歩くことについて考えた哲学者は多くない。
ウォークス 歩くことの精神史
人類学、宗教、芸術、都市機能etc
あらゆる角度から「歩く」を見つめ直した
哲学書のような1冊。
そういえば「歩く」ってなんでしょうねぇ。
本書で語られているのは、
そもそも「歩ける」ことが
人間らしさの象徴であると。
人間らしさとは「考える」ことです。
一説によると・・・
ヒトは直立歩行ができるようになったことで、
脳が発達したそう。
2本足で立てるということは
「腕」が使えるメリットがあります。
前足が進化したこの部位は、
掴む、作る、壊すといった
複雑なことができるようになり、
さまざまな文化を作ってきました。
身体を支えるという役割は
失いましたが、
前腕の自由に合わせて
脳はそれに見合うように発達した。
というわけです。
そうすると、
「歩く」と「考える」は
密接な関係にあるような気がしませんか?
考える歩行
儀式となった「歩く」
そのひとつが巡礼。
霊性は土地に宿るとの考えから、
かつて偉人が歩いた道のりを辿ること。
なぜ、辿りたいかというと、
偉人の記憶を辿って、
その人に近づきたいからですね。
記憶は、具体的な場所として
イメージすることで
風景となり、脳に刻むことができますから。
もう一つ踏み込んで、
ただの移動手段だった「歩行」を、
楽しむようになった人たちも現れます。
どう歩くのを楽しんだかというと、
「庭園」を造ったことです。
例えば中世ヨーロッパに生まれた
だだっ広い庭園では、
花壇や並木道や噴水など、
目を楽しませる建造物が目立ちます。
そして、庭園だけでは満足せず、
次第に自然散策へと移っていくのです。
現在でも森林浴、山登りなどなど、
「歩く」ことを楽しむイベントは多々あります。
そして、「楽しむ」ことから
さらにもう一歩踏み込んだ「歩行」
それは、
街の中心で行われる種々のパレード、
行列、抗議、デモ、行進などなど。
著書・レベッカさんは
世界へ踏み出すには三つの条件があると
書いています。
その1_自由時間がある
その2_行く場所がある
その3_身体が病や社会的拘束に
妨げられていない。
歩くことの価値を語るものは
たいてい、独立、孤独、社会的自由について
語っているとか。
どういうことかというと、
田舎歩きは自然賛美的なところがあり、
ポジティブなものとして捉えがち。
ですが、
街歩きはつねに後ろ暗さを引きずっていて
ナンパやポン引き、練り歩き、
暴動、抗議行動、忍び歩き、
浮浪といった行為を
いとも簡単に行えてしまう。
そういったことから、
あらゆるパレードや行進やお祭りが
疎外の克服という可能性をもち、
都市や公共の空間と生活を取り戻す行為として
考えられるようになりました。
ともに歩くことは、
もう何かの途上ではなくて、
すでに達成されたことを意味するように
なったんですね。
歩行者に冷たい社会
このように、
いろんな「歩く」があるいっぽうで、
都市は年代を経るごとに
歩行者に冷たくなっていきました。
田舎暮らしなら分るかと思いますが、
ショッピングモールは
正面玄関ではなく、
駐車場を出入口とする建物を建設するなど。
自動車が中心の世界になっていきます。
車を運転してて
歩行者が邪魔だなぁ。と
感じることはありませんか?
歩くことは、
時に、貧乏な人がやることとして。
時に、効率の悪い行為として、
捉えられることも増えました。
車、鉄道や飛行機など、インフラの発達は、
時間と空間を大幅に短縮し、
見ようによっては、
乗客は旅人ではなく「小包」と
なっているかもしれません。
というのも、
車中でスマホいじったり、
寝たり、
飛行機に至っては、
スクリーンで映画を見せたり。
歩くことを止めたことによって
生まれた退屈を
別の何かで紛らわせるわけです。
それも単純作業で!
そこを歩くことで、
肌で感じられるものを見逃すことは
視野を広げることには繋がらないでしょう。
「歩ける」場所が減った代わりに、
人々は、何をするかというと、
エクササイズジムへ通いだすと思います。
歩くことを運動と捉えた場合、
ジムで代用するわけです。
しかし、ジムは
部屋の中で行われる行為。
景色はずっと変わない。。。
自分の視野を広げたいならば、
外を歩くことが重要なのかもしれません。
・・・とまあ、
つらつら、長々と
本書の内容を語ってみました。
本当に、内容が濃くてね。
これ以外にも芸術分野から考えたり、
いろいろ書いていますが、
要約するとこういうことだと思います。
「自由に歩ける場所があるところが文明の証」である。
裏を返せば歩行者の数が少ないところは、
個々人の想像力も乏しくなりがち。
そして、日々の退屈を紛らわせるために、
ゴシップを追いかける日々に従事する、と
レベッカさんは書いていたりします。
読むのはすごく大変ですが、
作者の皮肉が妙にクセになる、そんな1冊でした。
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