“読書感想” 映画を早送りで観る人たち

書籍

「ねぇねぇ、あれ観た?」
 
近年、一番困る質問だ。
 
世の中、コンテンツでありふれている。
NETFLIX、Amazon Prime、U-NEXTなどなど。
動画配信サービスで展開される動画は
何十万とある。
 
さらに、Youtube、TikTok。
テレビゲームだってあるし、
映像にこだらなければ、
ポッドキャストだって。
 
一生かかっても全てを網羅するのは
不可能だ。
 
特に学生は
追い打ちをかけるかのごとく、
予定がいっぱい。
バイト、インターン、サークル、
就職活動、ボランティア・・・
 
やることいっぱいで
予定表もギチギチだぁ。
 
とてもじゃないけど、
「あれ観た?」に返せる言葉がない。。。
 
いや、待て。方法があったぞ!
時間がないなら、
倍速で観ればいいのだ。

映画を早送りで観る人たち

映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレーーコンテンツ消費の現在形 (光文社新書) [ 稲田豊史 ]

映画を倍速で観るって
それって楽しいのか?と、
正直、思う。
 
けど、その裏には、
そうさせてしまう背景があり、
今やそれは“普通”なのだ。
 
そんな現代の視聴スタイルを
紐解く1冊。
 
 
ちょっと、読んでてハッとしたんだけど、
いつからか、
「作品」を「コンテンツ」と
呼ぶようになってたな。と。
 
こうなると、話は違ってくる。
コンテンツを「鑑賞」するとは言わない。
コンテンツを「消費」すると言ったほうが、
なんかしっくりくる。
 
 
2021年、
マーケティング・リサーチ会社の
クロス・マーケティングによる調査では、
「よく倍速視聴する」
「ときどき倍速視聴する」
で23%の人が倍速視聴しているそうだ。
 
約、4人に1人はしている。
なぜ、そんなに生き急ぐ。。。
 
本の中で、心に残ったものを
抜粋して紹介。
 
内容濃ゆくて、楽しいので、
1度読んでみるのをおススメ。
 
 

なぜ、早送りするのか

とかく、現代人はやることが多い。
なので、1つ1つにかけられる時間が
すごく短い。
 
つまるところ、
「あれ観た?」に
返事さえできればいいのだから、
情報だけ知れば良いのだ。
 
 
最近では、
時間のコスパを重視する、
タイパ(タイムパフォーマンス)という
言葉があるらしい。
 
コスパこそ正義なり、
無駄は悪。
 
 
面白い意見が載っていたので、抜粋。
倍速する対象について。
 
・どうでもいい日常会話や
ただ歩いているだけのシーン。
 
・喋るのが遅い人物や、
たいして興味のない人物のシーン。
 
・セリフのないシーン。
 
セリフのないシーンには意味がないと
思われている。
これが、なかなか興味深い。
 
しかも、倍速視聴をやるのは若者だけにあらず。
意外と30代40代でも、やるときゃやる。
 
 
やっぱり根底にあるのは、
「観たい」ではなく、
「知りたい」
 
その究極が、
ネタバレ、考察サイトを読んでから、
視聴するパターン。
とにかく最短距離で、
マッハで結末を知りたい。
 
ぼーっと見てたら、
細かい演出を見逃しちゃう。
それなら、最初から
教えてもらったほうがいい。
 
 
めちゃくちゃ理にかなってるやん。
 
 
あまりにも情報に溢れている現在では、
ちょっと知ってるくらいじゃ、
「○○警察」の餌食だ。
身を守るには、
情報強者でいなければならない。
 
拍車をかけているのが、サブスクの存在。
大量の“コンテンツ”が観放題!
 
ひとつ、ひとつの作品に
金をかけなくても良いスタイルは、
気軽に楽しめるようになったいっぽうで
鑑賞する機会よりも
消費させる習慣を築いた。
 
これは、バイキングとすごく似てる。
胃の中に入れば良い!
元をとれれば良いのだ。
 
 

セリフで全て説明する作品の増加

わかんなかった。から、つまらない。
 
どシンプルすぎて笑っちゃう感想が
世には溢れている。
特に存在が目立つようになったのは、
SNSのおかげかもしれない。
 
分かりやすさと面白さは
直結しないと思うけれど、
そういうことじゃない。
 
そもそも、
分かろうとする努力は
コスパが悪いのだ。
 
 
日本のドラマやアニメでは、
説明セリフが、かな~り増えた。
特にアニメとかは顕著。
 
絵で見てわかることや、
ご丁寧に、感情まで、
しゃべってくれる。
 
「今、この人どう思ってるんだろう」
そんな、個々人の自由な感想を
抱く余地は少ない。
 
 
視聴者は
寄り道なく、最短距離で
答えを掴みたい。
欲しいのは、答えであり、
意見ではないのだ。
 
消費者に誤解する余地を与えず、
分かりやすく単純化する。
 
今、求められるのは
そんな作り方。
 
 
作り手も、
わかりやすさに敏感。
伝わらないことが
とても不安で不安で仕方がない。
 
このあたりは、自分も仕事してて
よく言われる。
まあ、私が作っているのは
ドラマではないけれど。
 
 
そして、マンガ原作の話は、
少しでもセリフを改変すると、
適切な脚色でも不満の声が上がる。
 
だから、アニメは、
コミックスのセリフを忠実に再現しているが、
脚色はしていなかったりする。
 
マンガは1枚絵で伝わらない情報を
セリフに詰め込んでいるのであって、
それを、まんま落とし込んでも、
違和感があるんだけどなぁ。
 
 
この作り手の
「伝わらなかったら不安」で生まれた
説明セリフの数々は、
実は倍速視聴と相性が良い。
 
倍速でも、音が聞こえるので、
セリフで説明してくれると、
ストーリーが追いやすい。
逆に沈黙が続くシーンは
物語が進行していないと思われるらしい。
 
 
この説明になれすぎちゃうと、
暗喩や皮肉を理解できない。
 
例えば、
カフェの席に一人の男が
座っているとする。
 
しかし席にはグラスが二つ。
 
すると、男は一人で来たわけではないと
分かるのだけど、
そんなことが伝わらなくなっていく。
 
 
さらに、説明の少ない映画やドラマを見ると
情報が少ないと感じて、物足りない気分に。
 
そして、そんな人たちのために、
日本のコンテンツたちは
説明を増やしていく・・・。
 
 
人間性は習慣が10割らしいので、
この視聴習慣がつくとどうなっていくのか。
気になるところ。

手軽に個性を!

ここまでで考えると、
正直、そうまでして観なきゃいいじゃん。
って思っちゃいそうだけど、
そうもいかないのである。
 
情報を知っているだけで、
話せる相手がグッと増えるし、
なにより、
オタクへの憧れがある。
 
 
今の学校教育のキーワードは、
オンリーワン。
「みんな違ってみんな良い」
 
かつての、自分らしくあれば
それで良いという教育は、
現在、個性的でなければならない。
という強迫観念を与えている。
 
 
SNSの登場で一番大きいのは、
自分よりすごい「知らないアイツ」を
簡単に見つけられてしまうこと。
 
ちょっと好きくらいじゃ、
知らないアイツに
マウントを取られてしまう。
 
そんなのは楽しくない。
 
だから自分の居場所を守るために、
情報を入れておきたい。
 
新しい言葉も生まれた“推し活”
オタクと名乗るのは恐れ多い。
謙虚なスキ。それが推し。
 
 
本来たくさんの作品を観て
なるべきオタク。
つまり個性的な専門家の立場に
手っ取り早くなりたい。
それを可能にするのが“倍速視聴”
というわけだ。
 
時間をムダにはできない。
出遅れれば、周りに下に見られてしまう。。。
 
 

自分の信じるものが正義

なぜラブコメが好まれるのか。
それは、ハッピーエンドが保証されているから。
 
読者は一瞬たりとも
「どん底」を味わいたくない。
 
答えのない物語は疎まれて、
キャラの行動や感情は
単純明快でなければならない。
 
エンタメに求めるのは
心が豊かになることでなはい。
快適さである。
 
 
現代のスマホやパソコンは
アルゴリズムによって、
自分の見たい情報だけが入ってくるようになっている。

そんな中、Z世代は、
自分が共感する情報にしか触れずにいるため、
違和感のある情報に接すると、
拒絶反応を示すという。
 
つまり、「信じたいものを信じる。」
それが例え嘘であっても。
 
これは、トランプ元大統領の発言に
右往左往していた支持者の構図を思い出す。
 
 
現在の日本エンタメは、
キャラ重視というか、
登場人物に共感できるかどうかが全て
と言っても過言ではない。
 
しかし、人ってのはそう単純じゃない。
時には、自分には共感できない人の
行動を知ることも大事だと思う。
 
映画はそんな、人間の複雑さを教えてくれる。
しかも観客は、安全な場所にいながら。
リスクを最小限に学べる。と
私は思っている。
 
 
 
ただ、やっぱり、
ここでもネックになるのはコスパだ。
 
異なる価値観に触れて理解につとめるのは、
時間が足りない。
だから、自分と違う他者の答えを、
「そんな意見もある」で、流せない。
 
自分の考えを補強してくれる意見だけを集めれば、
そこに何があるのか。
 
もしかしたら、
他人に対する想像力の欠如。
相手の立場をおもんばかることが
難しくなっていくのかもしれない。
 

感想〆

実はよく倍速視聴をする人でも、
全部が全部を倍速で
観ているわけではないらしい。
 
そりゃそうか。
 
ちゃんと、芸術として鑑賞するものと、
娯楽として、情報収集に徹するものと、
使い分けているそうだ。
 
鑑賞する作品っていうのが、
どういうものかが分かれば、
この先、テレビやなんかが文化として
残る方法が見つかるのかもしれない。
  
儲けとは別にね。
 
今の消費主義な作り方は、
たぶん後世に何も残っていかないだろう。
 
そんな気がする。

そして、気づけばこの本の感想書くこと自体が
映画の早送り視聴となんら変わらないことを
してるんじゃなかろうか。とも思う。


 

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