″イラン映画パない″ 「英雄の証明」 感想

映画

自分の行いを完璧に証明することは難しい
ただの“つぶやき”すら覆せないほどに。
という映画の話。

英雄の証明

出典:英雄の証明 公式サイトより引用

データ

公開:2022年
製作国:イラン、フランス
受賞:第74回カンヌ国際映画祭 グランプリ

あらすじ

元看板職人のラヒムは借金を返せなかった罪で
投獄され、服役中の身。
 
ある時、婚約者が偶然拾ったものが、
ラヒムの運命を変えてしまう。
それは17枚の金貨だった。
 
借金を返済すれば出所できるラヒムにとって、
まさに願ってもない幸運。
 
はじめは、金貨をもとでに
訴訟を取り下げてもらおうと試みるも、
しだいに、罪悪感にさいなまれたラヒムは、
金貨を落とし主に返すことを決意する。
 
すると、
このささやかな善行がメディアに報じられ大反響!
ラヒムは「正直者の囚人」という英雄に祭りあげられていく。
 
借金返済の寄付金も殺到し、すべてはうまくいくように思われた。
 
ところが、 SNSから広まった“ある噂”をきっかけに、状況は一変。
彼は詐欺師のレッテルを貼られることに・・・。
 

劇中に、SNSの画面はまったく映らないにも関わらず、
私たちが、いかにSNSと共にあるか、
誰かの“つぶやき”をかき集めて生きているか。
痛感する映画です。
 
 
まず、構成がうまい!
 
オープニング。
ラヒムが遺跡の階段を登るさまを
ノーカットでたっぷり時間を使って
見せてきます。
 
この部分は、
これから始まる苦難の道のりを感じさせるし
対局するように、
婚約者が階段から降りてくる場面は、
カットを多用し、時間を短縮している。

上がるのは困難、転落はあっという間と
いったところだろうか。
深読みしすぎ?
 
 
まあ、というわけで、くだんの
大金を拾った話になっていきます。
 
最初は、本当にただ、善行をしただけ。
大金を拾って返した。
超良いやつ。
巧妙なのは、
それを知っているのは観客だけ
という点。
 
劇中の登場人物は、
一部をのぞいて知らないわけ。
 
 
“良い人だ”と前段で示されるだけに、
次第に、明かされていくラヒムの人間性に、
どんどん疑心暗鬼になっていく。
 
実は、1億を超える借金をし、
貸主の人生まで狂わせた
どうしようもなく弱い人間だったのである。
 
このラヒムの人物像を小出しにするんですが、
明かしていくタイミングが絶妙。
 
SNSで見かける“手のひら返し”を
具現化するとこんな感じに見えるだろう、
という構成になっていると思いました。
 
 
劇中のセリフにもありましたが、
やって「当然のこと」をしただけなんですよ。
 
普通の道徳心を持っていれば、
誰でもやるはずだろうこと。
それがなんで祭り上げられるのか。
 
そこには、いろんな人の思惑が絡んできます。
ラヒムの善行に乗っかりPRにしようと
画策する刑務所や慈善団体。
家族、婚約者などなど。
 
それぞれが、自分に都合の良いウソを
ちょっとづつ、ラヒムにお願いするわけです。
 
たとえば、
借金の話は、世間に対する聞こえが悪いから
内緒にするとかね。
 
それぞれの立場の都合で、
変わっていく証言。
 
 
さらにSNSで広がる真偽不明の
良くないウワサ。
 
うまいのは、それぞれのウワサの
真相を観客にも見せないのだ。
だから、見てる側も試されているというか。
 
なぜなら、ラヒムは良いことをしたけれど、
嘘をついていることも見てる側は知ってるし、
なにより、けっこうズボラな人間だと、
だんだん理解してきますからね。
 
ラヒムは英雄なのか、
やっぱり詐欺師なのか、
信じる基盤がグラグラにさせられるというか。
 
そのサスペンスが面白い。
 
良かれと思ってついた嘘が、
後半たたみかけるように、
全部裏目に出るさまは、なんともいえない気持ちになる。
 
 
裏目に出るといえば、
ラヒムに金を貸した貸主の
印象が序盤と後半でガラリと変わります。
 
序盤は、貸主が
悪いやつに見えるんですよ。
 
「借金を一括返済できるまでは
金は受け取らん」と
頑として融通利かないやつに見えるんです。
 
が、
ラヒムの事実が明るみになるたびに、
悪いのラヒムじゃね?
という気持ちに。。。
 
 
 
そして、ラストカット。
 
拘置所の開け離れたドアから見える光景と
ラヒムの現状がうまく対比になったショットがある。
 
 
ドアから見えるのは
明るい外の世界で、
刑期を終えた男と恋人が喜びを分かち合う。
まあ、ラヒムの理想の世界ですよね。
 
いっぽう現実のラヒムはというと、
暗い暗い、拘置所の受付で・・・。
 
理想と現実が同居した良いショット。
そういえば、
この隔たりのある2つが同居するショットは
「別離」でも見たな~。
同じ監督さんですよね。
 
 
最近気づいたけど、
イラン映画はあなどりがたし!
 

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