タイトルだけ見ると物騒だけど、
実は画面の隅々まで皮肉たっぷりの
コメディ映画の話。
皮膚を売った男
データ
公開:2021年
製作国:チュニジア、フランス、ベルギー、
スウェーデン、ドイツ、カタール
サウジアラビア
あらすじ
シリア難民のサムは、偶然出会った芸術家からある提案を受ける。
出典:映画『皮膚を売った男』オフィシャルサイトより引用
それは、大金と自由を手に入れる代わりに、
背中にタトゥーを施し彼自身が“アート作品”になることだった。
美術館に展示され世界を自由に行き来できるようになったサムは、
国境を越え離れ離れになっていた恋人に会いにいく―
しかし、思いもよらない事態が次々と巻き起こり、
次第に精神的に追い詰められてゆく。
世界中から注目されるアート作品“サム”を待ち受ける運命とは…。
タイトルに惹かれて
シネマ映画.comで視聴。
劇中にあったけれど、
人よりモノのほうが、
自由に世界を行き来できる。って。
確かに、その通りだなと。
社会というのは、
しがらみだらけで、移動も満足にできない。
そんな中、自身を“アート”という
ひとつの“モノ”にしてしまうことで、
自由を手に入れようとした男が主人公。
タイトルから勝手に連想して、
皮膚を剥いでいく、重苦しい話かな。と思いきや、
まったく、そんなことなく。
前述した、社会に対する皮肉が
たっぷり込められたコメディ。だと思いました。
冒頭から、もう楽しい。
主人公サムが、他国へ亡命するときの
芸術的な身の隠し方。
「え、そんなとこに?」ってところに
隠れているので、最初の驚きポイント。
これはバレないわ。って納得しちゃいました。
背中に吹き出物ができたあとの
展示物修復中のくだりも、
「そうだよなぁ、生ものだもんな」と
笑っちゃいました。
映画的表現の数々も目を引きます。
ヒヨコの仕分け作業中に
iPhoneを眺めるサムのシーンがあります。
箱詰めのヒヨコたちとiPhoneのショット。
ちょっと長めに見せているので、
明らかな意図を感じるショット。
これは、
たぶんヒヨコが群集のメタファーなのかな。とか。
そのうえで、iPhoneは、
救いのクモの糸的な象徴なのかな。とか。
このショットを撮りたかったから、
主人公の職業決めたんじゃないかと思うくらい
計算されている。
また、カメラ越しだったり、
塀越しだったり、
扉だったり、
何かの枠に収められた主人公サムという
ショットが、すごく多い。
自由と言いつつ、実は、
社会の“システム”に捕らわれているんだよ。
ってことを表しているのかも。
アートの裏には、
権力者たちのマネーゲームという側面もある。
その枠組みに、弱者は踊らされているだけ。
という揶揄なんでしょうか?
とにかく、映像的メッセージの伝え方が
ユーモアにとんでいて、見てて飽きない。
全カットに、
「どんな意味があるんだろう。」と
考えるのが楽しくなってくる映画でした。
そして、
中盤、人権団体が、
シリア人を見世物にするとは酷い!と
がなり立ててくるシーン。
ただ誰も、サムのことを案じているわけではなく、
サムを広告塔にしたいだけ。
そんな魂胆が見え見えで中々の皮肉だった。
自分の言いたいことを
素直に言える世の中が、
本当に「自由な世界」なのかもしれないなぁ。
と、見て思いました。
けっこう面白かったです。
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