ポルノグラフィティじゃないけど、
『頭ん中バグっちゃってさぁ』となる
SF小説の話。
なめらかな世界と、その敵
全6編の伴名練先生、作品集
ポップな表紙とは裏腹に
めちゃくちゃハードSFしてます。
いや、あなどってたわ。
〇なめらかな世界と、その敵
表題作かつ、
『頭ん中がバグる』理由を
大きく占めるのがこの話。
物語の冒頭、こんな文章が
先制パンチのように、飛んでくる。
三十度近い熱気に炙られた坂を勢いよく下って、
出典:「なめらかな世界と、その敵」P11より引用
いい感じに汗をかいたら、
異常気象で狂い咲いた桜のしだれかかる並木道を駆け、
途中からは路面の早すぎる紅葉をサクサクと
踏みしだいて、季節外れの雪化粧を纏った橋を、
凍った川面に目を眇めたりしつつ走り抜ける頃には、
丘の上に高校が見えてくる。
わけが分からないよ~。
途中まで、頭の中がぐちゃぐちゃにされる、
伴名氏にいいようにされちゃうのだ。
この話は、全ての人間が並行世界へ
自在に意識を飛ばせるという、
変わった物語。
たくさんの“可能性”を
行き来できるからか、
失敗に怯えなくていいわけで。
登場人物は、
どこか楽観的なキャラが多い。
そんな中、
並行世界へ行けなくなった
“変わった”人が現れて・・・。
〇ゼロ年代の臨界点
日本SF史の研究論文。のていで進む、
変わった話。
論文なので、
会話などは出てこないが、
日本SFの始祖は誰か?
という研究考察が面白い。
のみならず、
この話は、
もういっこ、仕掛けが隠されている。
物語の途中から、
微妙な違和感に気づくんだけど、
最後の最後で、
「うわ~、やられた!」となる。
〇美亜羽へ贈る拳銃
ナノマシンによるインプラント技術によって、
人間の衝動を自在に操れるようになった世界。
そこで結婚式の新しい定番が生まれた。
ナノマシンをお互いに注射し、
“愛”を固定させること。
つまりは、愛せずにはいられなくなる
衝動を作ってしまうのだ。
これに関しては、
あんまり語ると面白さ半減する気がする。
インプラントには懐疑的な主人公と、
そんな主人公を殺そうとする開発者の
すごく歪な一種の“ラブストーリー”とだけ。
〇ホーリーアイアンメイデン
これまた、変わった球種の話。
全て一人称。
手紙による独白、懺悔として話が進む。
とある姉妹の話で、
妹から姉へ送る、ある罪の告白。
争いのない世界とは?
そんなことを考えてしまう。
〇シンギュラリティ・ソヴィエト
SFのテーマでよくあるのは、
「あの日、あの時、
実は真実は違っていたら?」だ。
この話は、
人類史上、月面に最初に降り立ったのが、
アメリカのアームストロングではなく、
ソ連だったら・・・?
という、ワクワクする切り口で始まる。
米ソ冷戦は、どう終結して、
世界の覇権をとったのは誰なのか?
二転三転していくストーリーは、
映画を見ているようでした。
〇ひかりより速く、ゆるやかに
一番好きな話。
ざっくり、概要。
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修学旅行生を乗せた新幹線が、
“低速化”という未知の現象により
突如、線路の途中で止まってしまった!
新幹線は、外部からの干渉をいっさい受け付けず、
破壊することもできなくなる。
まるで、時間が止まってしまったかのうように、
全て止まった乗客たち。
病気で修学旅行に参加できず、
難を逃れた主人公・ハヤキは、
このニュースに途方にくれてしまう。
対策も何も打てないまま、
やがて、彼の耳にひとつの朗報が入る。
実は、肉眼では確認できないほど、
ゆっくり進んでいることが分かったのだ。
しかし、計算から導き出された答えは、
ハヤキをさらに、突き放すものだった。
みんなと再び出会えるのに
かかる時間は、『二千七百年』
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SFには、
コールドスリープを扱った話がよくあって。
何年も寝てる間に、
現実は何百年も経っていた。
そんな世界に戸惑いながらも
尽力するって話。
あれの逆パターンだと思っていて。
取り残された側を扱った話は
見たことなかったので新鮮だった。
友達は老けずに、10代のまんまなんだけど、
自分だけ、どんどん大人になっていくハヤキとか。
哀愁とか、切なさを感じたし。
しかし、そんなハヤキにも
絶対に誰にも言えない秘密があって・・・。
とにかく、エモい。
・・・エモいって便利な言葉だな。
エモい話です!
どうでもいいけど、話の内容から、
ひかりって新幹線の名前かな?
とか思ったけど、
彼らが乗ったのは、のぞみなんだよね。
いや、ごめんそういう話じゃないんだけど。
以上、「なめらかな世界と、その敵」の感想でした。
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