“人間関係は平行線がちょうど良い”『雪の轍』感想

映画

全編ほぼ会話劇だけど、
『十二人の怒れる男』的な、丁々発止のやり取りが
見てて飽きない。そんな映画の話。

雪の轍

雪の轍(字幕版)
新品価格¥324から

データ

公開:2015年(日本公開)
製作国:トルコ、フランス、ドイツ
監督:ヌリ・ビルゲ・ジェイラン

あらすじ

世界遺産のトルコ・カッパドキアに佇むホテル。
親から膨大な資産を受け継ぎ、
ホテルのオーナーとして何不自由なく暮らす元舞台俳優のアイドゥン。
しかし、若く美しい妻ニハルとの関係はうまくいかず、
一緒に住む妹ネジラともぎくしゃくしている。
さらに家を貸していた一家からは、思わぬ恨みを買ってしまう。
やがて季節は冬になり、閉ざされた彼らの心は凍てつき、
ささくれだっていく。窓の外の風景が枯れていく中、
鬱屈した気持ちを抑えきれない彼らの、終わりない会話が始まる。
善き人であること、人を赦すこと、豊かさとは何か、人生とは?
他人を愛することはできるのか―。
互いの気持ちは交わらぬまま、
やがてアイドゥンは「別れたい」というニハルを残し、
一人でイスタンブールへ旅立つ決意をする。
やがて雪は大地を真っ白に覆っていく。
彼らに、新しい人生の始まりを告げるように。

出典:映画『雪の轍』公式サイトより引用

邦題が、けっこう的を射てる。

轍(わだち)は、車輪の跡。という意味だが、
よく見てみると、ずっと平行線。
1台の車による轍が、もし交わることがあれば
何かしら異常のあるサイン。
 
平行線であることが、正常なのである。
 
それと、同じように、
人間関係は、適度な距離を保って
過度に交わらないほうが、
良い関係を築けるのかもしれない。

 
そんなことを思いました。
ちなみに、原題はKis Uykusu。
「冬眠」というニュアンスらしい。
膠着した関係と捉えれば、
これはこれで、詩的な表現。
 
 
 
ではでは、内容の話。
持たざる者と、持つ者の、
決して埋まらない溝を感じた。
 
 
主人公、アイドゥンは超がつく金持ち。
その裕福ぶりは、金への執着がなくなるほど。
劇中、ケチ臭さとか、
ビジネスばかり考えている雰囲気でもない。
強者の余裕というのだろうか。
 
なので、貧しいものたちの気持ちが
よく分かってない。
貧乏人には投資でもしておけば、いいんだろ。
くらいの感覚だ。
 
そして、完璧主義でもある。
いや、強者だからこそ完璧主義なのか。
とかく、誠実、良心を説く。
 
人が人を気づかえるのは、
生活に不自由がなくなった時とは言ったもんで。
他人にも、自らの理念を押し付けようとする。
 
 
そんな、アイドゥンから
家を借りて生活しているイスマイル家は、
めちゃくちゃ貧乏。
何か月も家賃の滞納をしており、
それが、アイドゥンとの溝を深めていく。
決定的なのは、
終盤、アイドゥンの妻、ニハルが持ってきた施しを
突っぱねたところですね。
 
施しなんて、金持ちの傲慢だ。
そんな怒りが見え隠れしていました。
 
というか、アイドゥンは、ひと言多い。
生活苦のイスマイル家に、
誠実に生きろ。とか余計だろう。
 
その、ひと言多さが災いしてか、
妹のネジラ、妻のニハルとも
壁ができている。
 
 
ネジラとの、ソファーでのやり取りは、
聞いててハラハラする。
 
「あなたのやってることは偽善」
「悪に抗わない生き方をするべき」と
ネジラに罵られて、すごい口論になる。
 
中年って、自分の意見を変えるのが難しいんだと思うんです。
だから、お互い自分の理論を譲らず、
皮肉の言い合いになっていくわけですが・・・。
どっちが、いつぶち切れるのかハラハラ。
遅れて来た反抗期か!って思っちゃうシーン。
 
 
 
そして、妻ニハル。
こちらは、もっとこじらせていて、
ニハルはアイドゥンと口も聞きたくないわけです。
 
だから、劇中。
アイドゥンの「オレ聞いていないけど」
やたら多いです。
特に印象的なのは、
ニハルが企画したパーティに
知らずにやってきたアイドゥンの言う
「オレ、呼ばれてないけど。」
超さびしくなる!
 
実は、夫婦というより、
父親と思春期の娘が近いかも。
 
 
それでも、ニハルが好きなアイドゥンは、
どんなに罵られても、会話を続けようとするわけです。
寝室での、やり取りなんか、
終わりそうで中々終わらない会話に、
アイドゥンのいじらしさが垣間見えます。
 
 

会話劇が主なのにも関わらず、
直接的な気持ちは、誰もしゃべらない。
けれど、言葉の端々から本当の気持ちが
透けて見て取れる。
そんな、アプローチの面白い映画でした。
 
 
最後、ちょっとは、二人とも変わったのかな。
それとも・・・。
 
 
ただ3時間越えの長尺なので、
さすがに、気軽に誰かへすすめづらいのが難点。
無為な時間を過ごさせてしまう。

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