読書&映画感想『箱男』

タイトルのシンプルかつ奇妙さに惹かれて、
手に取ってみたら。。。
そのディープすぎる世界観に圧倒されたというお話。

今回は、昭和57年に発表された原作小説と、
それをもとにした映画の感想を。

箱男 (新潮文庫)

箱男(新潮文庫)
著者:安倍公房

ダンボール箱を頭からすっぽりとかぶり、都市を彷徨する箱男。
彼は、覗き窓から何を見つめるのだろう。
一切の帰属を捨て去り、存在証明を放棄することで彼が求め、
そして得たものは?
贋箱男との錯綜した関係、看護婦との絶望的な愛、
輝かしいイメージの連鎖と目まぐるしく転換する場面。
読者を幻惑する幾つものトリックを仕掛けながら記述されてゆく迷宮。
衝撃的な反響を集めた問題作。

出典:裏表紙より

まずは、原作から。
冒頭、ホームレスが増えてきたという話から始まり、
さらに「箱男」を見ると「箱男」になってしまう。という、
都市伝説的なことも語られる。
だから、てっきり、箱男もアウトサイダーな人物の話かと
思っていた。

もう、まったく違いましたね。

この物語を象徴するキーワードは。

「見る」ことは「見られる」ことである。

これを個人的に解釈してみる。
ひもとくカギにするのは、作中、さらっと書かれている、
世の中はニュース中毒だ。という言葉。
ふまえて、こう考えました。

世間は「切り抜き」でできている。

本、TV番組、うわさ話。
みんな誰かの切り取った世界で生きている。
常に何かの情報にひたっていなければ、いきていけない。

さらに、令和の現代では、
『箱男』の書かれた昭和の時代よりも顕著になり、
切り取られた世界の「切り抜き」すら存在する。

こうして感想をつぶやくことも切り抜きであり、
誰かに見られている。
「見る」ことは「見られる」ことでもある。

ということだろうと、思うわけです。
それを身近に置き換えると、
うわさ話を聞く側から広める側になってることは誰しもあると思います。
箱男に無意識になっているんです。全員。

作中人物のダンボールのスキマから世間を覗く行為は、
一種の切り抜きに近い。
「切り抜き」ばかり追い求めた男の末路は、どうなってしまうのか・・・。

この『箱男』は、後半に行くにつれて、
支離滅裂さを増していくんだけど、
物語の推進力も増していって不思議。

最後まで読んで振り返ると、
表紙裏の写真からすでに安倍先生の術中にかかっているという。

これが、どう映画になったのか。
すごい気になる。

というわけで、さっそく見てきました。

箱男 The Box Man

8/23公開『箱男』予告編
出典:映画『箱男』オフィシャルサイトより
公開:2024年8月(日本公開)
製作国:日本
監督:石井岳龍

完全な孤立、完全な孤独を得て、社会の螺旋から外れた「本物」の存在。
ダンボールを頭からすっぽりと被り、街中に存在し、一方的に世界を覗き見る『箱男』。
カメラマンである“わたし”は、偶然目にした箱男に心を奪われ、自らもダンボールをかぶり、
遂に箱男としての一歩を踏み出すことに。
しかし、本物の『箱男』になる道は険しく、数々の試練と危険が襲いかかる。
存在を乗っ取ろうとするニセ箱男、完全犯罪に利用しようと企む軍医、
“わたし”を誘惑する謎の女・葉子(白本彩奈)……。
果たして“わたし”は本物の『箱男』になれるのか。
そして、犯罪を目論むニセモノたちとの戦いの行方はー!?

出典:映画『箱男』オフィシャルサイトより

最初、原作の続編かと勘違いしてました。

箱男に魅了されたから、箱男になったという話が冒頭にあるため、
これが、原作冒頭のA男の話の続きかな?と。
原作では、1ページくらいの描写しかなかった
ワッペン乞食との攻防も描かれるし、
なおさら、続きの物語だと思っていました。

そういうわけではなく、
製作者たちなりの解釈が入った映画。
・・・この視点はなかった!

たとえば、原作の幕間ではさまる遺書のような手記。
あれを書いたのは“わたし”だと思ってたんです。
映画では書いたのは実は・・・的な展開。
確かに、そういう解釈もできる。

原作の支離滅裂さをまとめて、一本筋のとおった話になってます。
かといって、原作の魅力が薄まるわけではなく、
それどころか、映画だからできる、
「見る」ことは「見られる」ことである。から一歩踏み込んだ表現も。

簡単にいうと、
映画とは、誰かの人生を追体験する行為とすると、
劇場は1種の箱かもしれません。

それはそうと、
走る箱と、殴り合う箱はビジュアルにすると妙に愛くるしい。
どシリアスのシーンなのに可愛く見える。
当事者にとっては悲劇であるはずなのに、
関係ないものからみると、喜劇ですらある。

案外、人がうわさ話を求める理由のひとつはそれかもしれない。

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