読書感想 “プロジェクト・ヘイル・メアリー”

プロジェクト・ヘイル・メアリー 上
著者:アンディ・ウィアー  翻訳:小野田 和子
プロジェクト・ヘイル・メアリー 下

地球上の全生命滅亡まで30年……。
全地球規模のプロジェクトが始動した!

グレースは、真っ白い奇妙な部屋で、たった一人で目を覚ました。
ロボットアームに看護されながらずいぶん長く寝ていたようで、
自分の名前も思い出せなかったが、推測するに、どうやらここは地球ではないらしい……。
断片的によみがえる記憶と科学知識から、彼は少しずつ真実を導き出す。
ここは宇宙船〈ヘイル・メアリー〉号――。

ペトロヴァ問題と呼ばれる災禍によって、太陽エネルギーが指数関数的に減少、
存亡の危機に瀕した人類は「プロジェクト・ヘイル・メアリー」を発動。
遠く宇宙に向けて最後の希望となる恒星間宇宙船を放った……。

出典:『プロジェクト・ヘイル・メアリー 上』表紙裏より

実はこれノンフィクションだと言われても
信じてしまうくらい緻密な描写の数々。

さらっと、内容を語ると、

ある日「アストロファージ」という、
新種の微生物が発見されます。

この生物は、太陽光を・・・太陽エネルギーをエサに繁殖。
宇宙空間に巨大な繁殖エリアを形成し、それは発見者の名前にちなんで、
ペトロヴァラインと命名されました。

金星から太陽へとのびるペトロヴァラインは、
本来地球に届くはずの太陽エネルギーを横取りし、
その結果、地球は気温低下による氷河期へとむかっていく。

危機を打破するため生まれたのが「ヘイル・メアリー」計画
ヘイルメアリーとは、アメフト用語で、
試合終盤に逆転の望みをこめて行うプレイのこと。
野球でいえば「一打サヨナラ」の場面。
はずせばすべてを失う、起死回生の計画。

計画の内容は、こうである。
世界中の科学者の研究の結果、
アストロファージは太陽以外の恒星にも存在することを確認。
他の星も同じように、エネルギーを吸収されていた。
ただひとつを除いて。
それが恒星「タウ・セチ」

タウ・セチ周辺にもアストロファージはあるはずなのに、
なぜか、エネルギーを吸収されていない。
現地に赴き、この謎をひもとき、地球に生かす。
それが、ヘイル・メアリー計画。
そのために、世界中から選ばれた人員はわずか3名。

・・・と、ファンタジーなんだけど、
どこか地に足のついた描写というか。それが面白い。

旅の途中、主人公グレースは同じようにアストロファージに悩む異星人と遭遇。
名前をロッキー(仮称)・・・仮なのは、異星人の言語が分からないから。
このロッキーがめちゃくちゃ癒し。
見た目は蜘蛛みたいらしいんだけど、人間に興味津々で、
「寝るところを見せろ」とか、些細な事まで観察したがる。
そんな二人がお互いの言語を徐々に理解していく姿、
そして、言語の壁を越えて共同研究していく様子は微笑ましい。

国という枠をこえて、人種を越えて、さらには星をこえて、
ひとつの課題に立ち向かうさまは、作者の願いもあるんじゃないかと。
本作では、みんな協力的ですが、
現実は争いばかりだし、実際こんな問題が起きたとして、
本当に手を取り合えるのか。。。
実は一番のファンタジーはそこかもしれない。

本作では、主人公グレースが徐々に記憶を取り戻す過去パート。
そして、アストロファージに立ち向かう現代パートの
二つの時間を行き来して物語が進んでいく。

過去パートは「なぜ記憶喪失になったのか」をたどり、
そもそも主人公は何者なのか、というミステリー仕立てになっていて、
「何ができるか分からない」謎を抱えたまま、困難に立ち向かう。
そんなサスペンスがある作品になってると思います。

とくに、下巻が面白くて。
インポッシブルなミッションに挑むさまは、
『アポロ13』を見ているような気持ちでした。

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