「月の光で黒人は青く光って見えるんだ。」
「ムーンライト」
公開年:2016年
受賞:アカデミー賞 作品賞
ゴールデングローブ賞 映画部門 作品賞など
監督:バリー・ジェンキンス
ざっくりあらすじ
マイアミの貧困地域で暮らす少年シャロン。 麻薬依存で育児放棄する母親 学校でのイジメ。 家庭内外に居場所のない彼は、 心のささえである唯一の友人、 ケビンを好きになる。 しかし、同姓を好きになったことを 誰にも言えるはずがなかった……。
中々ガツンときましたね。
この作品を「面白い」というには、
映画ってなにさ?を
自分に問いかける必要があります。
ので、感想は最後にでも。
この作品は、
主人公シャロンの人生を
少年期、思春期、成人期と3つの時代で描いています。
彼の前には、
イジメやセクシャルマイノリティ、ネグレクト。
さまざまな問題が立ちふさがります。
現実にもある、これらの問題を通して、
アイデンティティとは?を考えずにはいられません。
映画では、シャロンの揺れ動く心を、
分かりやすく提示していたりします。
そのひとつが名前。
各時代ごとに、彼の名前が変わるんですよね。
・少年期は、背が低いことを嘲る「リトル」
・思春期は、本名の「シャロン」
・成人期は、あだ名の「ブラック」
この区別の仕方からも分かるように、
自分が揺らいでいる「リトル」時代から
友人の存在を経て「シャロン」になり、
それが揺らぐ体験を経て「ブラック」と。
自分ではない何か、新しい何かになろうとしていた。
それが感じられました。
ちなみに、ブラック時代は
麻薬密売人になってます。
あのイジメられっ子がどうして!
・・・このどうしようもない感!!
主人公が最後に選んだ「ブラック」という名。
なんで、この名前を使うようになったのかを
映画を見ながら考えると、来るものがあります。
この3つの時代を描くといえば、
パッケージを見て
ピンと来る人もいるかもしれませんが、
実はこのパッケージは、3人の人物が合成されています。
「リトル」「シャロン」「ブラック」の3名です。
全てひっくるめて自分。
中々、秀逸なパッケージです。
ちょっと余談ですが、
むかしむかし、黒人は屈強な男の象徴として
映画に登場してきました。
ディザスタームービーやスプラッタなどなど
最初の犠牲者になるのは黒人です。
あの、屈強な男でも簡単にやられてしまう。
これから来る脅威を強調するポジションだったわけです。
(諸説あります)
今は、差別の観点からもそんな描写はありません。
ただ、そう考えると、屈強な男でも
こんなに繊細に悩みを抱えているんだよ!
と思うこともできます。
その悩み。
シャロンが抱えている悩みを感じるカットもあります。
それは、
映画本編で、主人公シャロンが
画面を、メタ的に言えばカメラを
にらみつけるカット。
この表情の裏側を考えるのも面白い。
さて、映画とは何かですが、
誰かの人生を追体験できるコンテンツ。
普通の人が何年、何十年もかかる過程を
2時間で体験できるのです。
それが例えフィクションだとしても、
自分が知らない世界の見方に触れることができる。
これが映画の魅力のひとつだと思うと、
「ムーンライト」は間違いなく面白い。
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